クラウディオ・アバド氏が亡くなってから、いろいろと残された録音を聴いていますが、交響曲の比較的新しい録音をまとめたセットが出ています。初回発売時にはすぐに品切れとなりましたが、アバド死去にともない再生産された模様。前々から入手していましたが、このたびまとめて聴いてみました。
●モーツァルト
モーツァルト管弦楽団との演奏、第29, 33, 35, 38-41番を収録。モーツァルトはアバドが得意としていた作曲家のひとりです。ピリオド・アプローチを踏まえた引き締まった演奏となっており、第35番「プラハ」や第41番「ジュピター」などは見事。聴いていても楽しく、やっぱりこういう名曲を生み出したモーツァルトはすごかったんだなぁ…… と感じられます。この素晴らしい演奏と比べると、第40番は若干ゆるい感じがします。
●ハイドン
ヨーロッパ室内管弦楽団との演奏、第93, 96, 98, 100-103, 105番を収録。ハイドンの交響曲はあまり聴いたことがないので比較が難しいですが…… こちらもピリオド・アプローチを踏まえた演奏。
●ベートーヴェン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との全集。ドイツ・グラモフォンからCDが出ていた録音ではなく、
映像が発売されていたライブ録音をCD化したものです(第9番以外)。というわけでほとんど聴いたことのある録音でしたが、やはりこれは名演。
●シューベルト
ヨーロッパ室内管との全集。劇音楽『ロザムンデ、キプロスの王女』も収録。これはアバドがシューベルトの自筆譜を研究して臨んだ録音とのこと。『ザ・グレイト』では通常と異なる音型なども出てくるようですが、よくわかりませんでした。『ザ・グレイト』はリピートを励行するとかなり長くなり、この録音でも1時間以上要していますが、ダレずに聴けます。
●メンデルスゾーン
ロンドン交響楽団との全集。これは比較的新しい録音の全集の中では決定盤と言ってよい名演だと思います。第4番『イタリア』で聴ける歯切れの良さと颯爽として躍動感に富んだ演奏は、誰にも真似できません。
●ブラームス
ベルリン・フィルとの全集。ブラームスは重く粘るよりも、このような演奏の方が聴きやすいと思っています。交響曲だけでなく、セレナーデや管弦楽曲、合唱曲も収録しているのは特筆できます。
●ブルックナー
第1番はルツェルン祝祭管弦楽団、第4, 5, 7, 9番はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏。アバドはいわゆる「マーラー指揮者」として知られていますが、ブルックナーだって悪くありません。ブルックナーを得意とする指揮者の演奏を聴いていると、演奏はなるほど見事ですが、時折神経質さが感じられることがあります。しかしアバドの場合はあまりそういうこともなく、特に第4番『ロマンティック』は非常に見通しが良くて歌心が感じられるような演奏になっています。このような演奏は繰り返し聴きたくなります。第5番はガチガチで難解な曲ですが、結構テンポの幅をとって演奏しているので、ブルックナーの演奏に悠然としたダイナミックさを求める場合はちょっと違うと感じられるかもしれません。
●マーラー
第2番はルツェルン祝祭管、第1, 3-9番はベルリン・フィルとの録音。アバドはマーラーを得意とし、録音も繰り返し行ってきました。
映像で出ているルツェルン音楽祭でのライブ演奏はどれも文句なしの名演で、ここに収録されている第2番も同じものです。ベルリン・フィルとの演奏ももちろん悪いわけがなく、第1, 4, 5, 9番は特におすすめできます。
こうして聴いてみると、アバドは何か変わったことをしているわけではまったくなく、スタンダードで何度も聴きたくなるような名演を数多く残していることがよくわかります。考えてみればベルリン・フィルの前任者であるカラヤンもそのような傾向がありましたが、カラヤンが力強くゴージャスな音響を追及していたのに対し、アバドは風通しが良くピリオド・アプローチも取り入れた演奏をしていました。基本に忠実ということなのかもしれませんが、愛聴盤になるような名演を多く生み出すというのはなかなかできることではなく、改めて感心する次第です。
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