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●五項目の自主規制
度重なるポエニ戦役に勝利し、危機を脱したローマでしたが、今度は内側に問題を抱えることになります。システムの改革が不可欠となるのですが、なかなか思うようには進みません。
まずはグラックス兄弟。この2人は改革も途半ばにしてともに殺されてしまいます。先見の明はあったのでしょうが、なかなか周囲の理解が得られなかったのか……
次に表舞台に立つのは、マリウスとスッラです。たたき上げの将軍として頭角を現したマリウスは、軍制の改革を実施し、軍役の職業化を行います。しかし失業者対策がうまくいきません。そして同盟諸国がローマ市民権を求めて反乱。激戦が続きますが、ローマは同盟諸国にも市民権を与えることで対処しました。
ポエニ戦役以後、同盟者戦役まで大規模な戦争はあまり起きませんが、戦争がないために失業者が発生し、経済格差が生まれてきます。華々しく活躍する将軍はいませんが、ここでの改革がローマのその後に大きな影響を与えたのでしょう。その意味では重要な時代です。スッラはまだあまり出てきません。下巻で活躍するのでしょうか…?
ついに、カルタゴのハンニバルと、ローマのスキピオとの戦いに決着がつきます。
ザマで、スキピオ率いるローマの軍勢はハンニバルと対峙。決戦の前日、なんとハンニバルとスキピオは会談します。戦いの前日に総司令官同士が会談するなど、空前絶後のことなのだとか…… 交渉は決裂し、両軍は会戦に挑みます。
ローマ軍はカンネでハンニバルに大敗を喫しましたが、今回包囲殲滅戦をやってのけたのは、スキピオのほうでした。カルタゴは講和に応じます。こうしてローマを救ったスキピオでしたが、元老院での争いから失脚させられてしまうのは、皮肉なことです。
のちに再びハンニバルとスキピオが出会ったとき、ハンニバルは自身を「われわれの時代で3番目にすぐれた武将」と評したそうですが、それは間違いではなかったのかも。スキピオは騎兵と歩兵を柔軟に運用する戦術をハンニバルから学んだのだし、ザマで4万のローマ軍は5万の軍勢を打ち破りましたが、カンネでハンニバルは自軍の倍以上のローマ軍を壊滅に追い込んだのですから。
このことがあっても、ローマの方針でまだ存続を許されたカルタゴでしたが、不幸な偶然が重なり、ローマの怒りを買ってついに滅亡してしまいます。そのとき指揮に当たったスキピオ・エミリアヌスが語ったという、「いつかはわがローマも、これとおなじときを迎えるであろう」という言葉は、その後の歴史を知っている私たちの胸に強く響いてきます。
地中海を挟んで共和制ローマと敵対した最大のライバル・カルタゴとの壮絶な戦いが始まります。カルタゴの軍勢を率いるのは、智将ハンニバル。アルプスを越えてイタリアに侵攻し、ローマの目と鼻の先で暴れまわります。ハンニバルの巧みな戦略の前に、会戦はことごとく敗北し、何人もの執政官が戦死します。
ハンニバルの手並みの鮮やかさが最も発揮されたのは、やはりカンネの会戦でしょう。圧倒的多数のローマ軍を翻弄し、ついには包囲殲滅した戦術は見事と言うほかありません。ただ、ハンニバルは会戦のみで正面からローマを撃破しようとしたのではなく、同盟国をローマから離反させて切り崩すという戦略が基本にあったようです。それは重要なことではあったのですが、あまりうまくいきませんでした。
ローマもやられたままで黙ってはいません。カルタゴ本国からハンニバルへの支援を遮断し、徐々に追い詰める作戦です。そして登場したのがスキピオ。スペインにおけるカルタゴの本拠地・カルタヘーナをあっさりと攻略する活躍を見せます。そしてハンニバル以外の軍勢を次々と破るローマ軍。今後の歴史からも目が離せません。
この本を読んでまず感じたのは、情報収集の重要性です。ハンニバルはこの点に余念がなかったため、十分な活躍ができたのでしょう。それはスキピオも同じでした。情報の把握が最重要、という今に通じる考え方は、すでにこの頃からあったわけですね。
そして、ハンニバルやスキピオの活躍も目覚しいのですが、ほかに印象に残った人物が1人。ローマの「持久戦」の代名詞、マルケルスです。ハンニバルを追撃し、たびたび攻撃をかけるものの、決して会戦には持ち込まない。この地味ながら粘り強い戦いぶりが、確実にハンニバルの戦力をそぎ、疲弊させました。この貢献を忘れるわけにはいかないでしょう。ハンニバルもマルケルスには一目置いていたようです。マルケルスはこの戦い方かするとあまりにあっけなく命を落としてしまうのが残念なところでした。
建国からたどってきたローマの歴史も、初期の見せ場であるポエニ戦争にさしかかります。
戦争を通して、ローマとカルタゴの違いが浮き彫りになります。軍船さえなかったローマが海戦に連勝し、みるみる海軍力をつけていく様子は見事だと思いました。「何事もマニュアル化する」ローマ人には、ちょっと親近感も覚えます。
文庫版の3巻は第一次ポエニ戦役が終了するまででしたが、このあとどう展開していくのか、気になるところです。史実は知っていますけど、細かい経緯も見ておきたいですね。
歴史上まれに見る大帝国を築き上げた、ローマ。その歴史について、丹念に書き上げている作品です。ずっと興味を持っていた話です。このシリーズは結構先まで発刊されていますが、わたしが読んだのは今のところここまでです。
この巻で注目すべき話題は、「ケルト人に蹂躙された後、ローマはいかにして復興を遂げたのか?」「衰退していくギリシアと、興隆するローマ、どこが違ったのか?」といったところでしょうか。ローマの歴史は戦争の歴史。戦記ものとしても楽しめます。